乃木坂46を一日一曲語る 5日目『失いたくないから』
はい、どうも。「まじめにふまじめ」をモットーにやってます、いたがきです。
乃木坂46を一日一曲語る。5日目は『失いたくないから』です。
(2020年4月23日追記)この記事を加筆修正してnoteに投稿しました。今後はnoteにて投稿を続けますので、よろしければフォローお願いします。
今日のこばなし -教室の後ろのストーブ-
先日、大学のキャリア教育の一環で、現役の小学校教員の話を聞きました。教職のブラックな実態や深刻化する登校拒否について包み隠さず話してくれる先生で、僕も興味深く聞いていました。
その中で僕が一番印象に残ったのは、その先生が務める小学校の教室にある備え付けの石油ストーブの写真でした。その時の率直な感想は「乃木坂の歌詞に出てきそうだなぁ」でした。
そのストーブは教室の後ろに設置されていて、暖かくなる筒状のパーツと、おそらくは燃料を入れておくための直方体のパーツを合体させた構造になっていました。周囲を金網で囲われており、かなり大きくて燃費の悪そうなフォルムはどこか古めかしさを帯びていて、冷えた体を温めようと児童たちが教室の後ろに集まってくる風景にはノスタルジーに近いものを感じました。
秋元先生、次のシングルにいかがですか?
『失いたくないから』ってどんな曲?
『失いたくないから』は2012年2月22日にリリースされた1stシングル『ぐるぐるカーテン』のType-Cに収録されています。
センターは生駒ちゃん(生駒里奈)といくちゃん(生田絵梨花)、歌唱メンバーは『ぐるぐるカーテン』選抜メンバーに、永島、中元、畠中、深川を加えた20名です。*1
アイドルの王道を行く曲というのが一般的な評価です。「懐かしい」感じのサウンドと、秋元康の真骨頂とも言うべきまるで小説を読んでいるかのような深みを感じられる歌詞には根強い人気があります。
また、この曲は2015年1月7日リリースの1stアルバム『透明な色』のDISC2にも収録されています。このDISC2はアルバム用の新曲に加えて1st ~10thシングルに収録された全カップリング曲の中から1stアルバムに収録する曲を決める人気投票によって選ばれた10曲が収録されたものです。
『失いたくないから』のMVはフランスにいる少女をイメージしているそうで、まだ何者でもない女の子の姿と、メイクやチュチュで着飾ってアイドルになった女の子の姿を対照的に描いているんだとか。
『失いたくないから』を語る
女の子と、その子のことが好きな奥手な男の子とのひと夏の出来事を甘酸っぱさMAXに歌った名曲です。
水道の蛇口
顔を近づけ
冷たい水
喉に流し込む
斜めに見える
あの青空が
どんな時も僕の味方だった
- 出典『失いたくないから』/ 作詞:秋元康 作曲:蛯原ランス
「斜めに見える」というのは蛇口をちゃんと上に向けないで、顔をひねるように近づけて水を飲んでいるときに、まるで空が傾いているように見えるってことじゃないでしょうか。圧倒的青春感!秋元康、スゴすぎます。
『失いたくないから』は一つ続きの物語のような印象を受ける曲ですが、個々の風景描写はそれぞれ独立しているように思われます。これに関しては“春”さんという方がnoteで解説されているとおりです。
蝉の鳴き声に
ぐるりと囲まれた
校庭の土に染み込んだ
夏の微熱に
君の白いシャツとグレイのスカートが
蜃気楼のように
切なく揺れてた
- 出典『失いたくないから』/ 作詞:秋元康 作曲:蛯原ランス
人間っていうのは仮にすべての表現を完璧に想像出来なくても、自分の経験と結びついて強烈にイメージされる箇所があればそこからなんとなくストーリーが広がっていって、気がつくと歌の中の人物に感情移入してしまうものです。この曲は特に「青春時代の思い出・後悔」みたいなものが魂となって乗り移りやすい曲だと思います。
心の中に
静かに風が吹き始め
ふと本音が騒ぎ出す
誰かを好きになるのは
一人になりたくないから
- 出典『失いたくないから』/ 作詞:秋元康 作曲:蛯原ランス
わかり味が深すぎてつらいです。この男の子を悩ませているのは「好きと言う勇気がない」ことではなく「好きということを認めて恋にしていいのか」ということです。 不意に彼女への「好き」があふれてしまう瞬間があるんだけど、でもその気持ちを恋だと認めてしまったら「告白」しなければならなくなる。
一人になりたくないから誰かを好きになるのに、それを恋と認めて告白したらその人を失ってしまう可能性がある。
このジレンマが、(僕のような)奥手な男子にとっての普遍のテーマなのであります。
コンバースの紐
直す振りして
君のことだけ
ずっと見ていたよ
- 出典『失いたくないから』/ 作詞:秋元康 作曲:蛯原ランス
結局、上記のジレンマに悩まされる彼に今できることと言えば靴ひもを直すフリしてその子のことをずっと見るくらいです。でもなんかそれがなおさら彼の純粋さを際立たせていて、『コンバース』という絶妙なワードチョイスとも相まって爽やかなサビになってますよね。
ひっくり返した
バケツの後で
体育館の上
虹が架かってる
一緒に眺めた
僕らの空は
恋の仕方 教えてはくれない
- 出典『失いたくないから』/ 作詞:秋元康 作曲:蛯原ランス
「ひっくり返したバケツ」は土砂降りの雨の比喩です。
彼の理想は、「この子を好きな気持ちはただ自分の胸の内にしまっておけばそれでいい。恋愛じゃなくていいからこの子と一緒にいたい。」でしょう。しかし、こんな悟りの境地みたいなことが実際に可能なのでしょうか?
少なくとも、虹を一緒に眺めているときは「恋」とか「告白」って言葉が脳裏をよぎっていると思います。だからこそ、頑張って悟りを開こうとしていた時は「僕の味方」だった空が、虹を見ている時には「恋の仕方 教えてはくれない」のではないでしょうか。
こういう奥手な男の子が出てくる曲は他にもあって僕は特に『今、話したい誰かがいる』が好きです。*2
今までならきっと逃げてただろう
君のことを失うのが怖い
片思いなら黙っていればいい
両思いなら気づかなければいい
- 出典『今、話したい誰かがいる』/ 作詞:秋元康 作曲:Akira Sunset・APAZZI
おわりに
『失いたくないから』が帯びる古めかしさとノスタルジーには「教室の後ろのストーブ」と近いものを感じます。
では、また明日。stay tuned!