いたがきのいいたがり

良質な無駄をあなたに

『愛がなんだ』は本当の意味での恋愛映画である

はい、どうも。「まじめにふまじめ」をモットーにやってます、いたがきです。

先日、早稲田松竹*1で『さよならくちびる』と『愛がなんだ』を観てきました。どちらも良い作品でした。中でも特に『愛がなんだ』が素晴らしかったので、少しだけこの記事で語らせてください。

愛がなんだ

 

基本情報

2019年4月19日にテアトル新宿他全国にて公開された。主演は岸井ゆきの。第31回東京国際映画祭コンペティション部門出品作品。

当初は全国72館で公開されたが、10代後半〜30代の女性やカップルを中心にSNSや口コミで評判となり、独立系の低予算作品としてはあまり例を見ないロングランヒットを記録。2019年6月時点で152館まで上映館が拡大された。

引用元:愛がなんだ - Wikipedia

 


切なすぎる…岸井ゆきの×成田凌『愛がなんだ』予告編

 

あらすじ

猫背でひょろひょろのマモちゃんに出会い、恋に落ちた。その時から、テルコの世界はマモちゃん一色に染まり始める。会社の電話はとらないのに、マモちゃんからの着信には秒速で対応、呼び出されると残業もせずにさっさと退社。友達の助言も聞き流し、どこにいようと電話一本で駆け付け(あくまでさりげなく)、平日デートに誘われれば余裕で会社をぶっちぎり、クビ寸前。大好きだし、超幸せ。マモちゃん優しいし。だけど。マモちゃんは、テルコのことが好きじゃない・・・。

角田光代のみずみずしくも濃密な片思い小説を、“正解のない恋の形”を模索し続ける恋愛映画の旗手、今泉力哉監督が見事に映画化。
テルコ、
マモちゃん、
テルコの友達の葉子、
葉子を追いかけるナカハラ、
マモちゃんがあこがれるすみれ…
彼らの関係はあまりにもリアルで、
ヒリヒリして、恥ずかしくて、
でも、どうしようもなく好き…
この映画には、
恋のすべてが詰まっています。

引用元:http://aigananda.com/

 

『愛がなんだ』の展開(転回)

 あらすじを読む限り、この映画の縦軸は「マモちゃんはテルコのことを好きになって、二人は結ばれるのか?」なのかなと思うでしょう。いたがきも本編を観るまでそう思っていました。しかしその予想は見事に裏切られます。本作の展開を端的に表すと「愛の行方→愛とは何か→愛がなんだ」となるでしょう。順を追って説明します。

 

愛の行方

愛の行方とはつまり先程の「マモちゃんはテルコのことを好きになって、二人は結ばれるのか?」を言い換えたものです。それぞれのキャラクターから別のキャラクターに向けて「好き」とか「友達」みたいな矢印がのびていて、誰かが「告白」したり「交際」したり「フラれる」ことで全体の相関図がどう変化していくかをテーマとしているということです。『愛がなんだ』の相関図はだいたい以下のような感じです。

テルコ(岸井ゆきの)はマモル(成田凌)に超絶片思いしているが、マモルはテルコを都合のいい女としか思っていない。そのマモルはすみれ(江口のりこ)に好意を寄せているが、すみれはマモルをなんとも思っていない。ナカハラ(若葉竜也)はテルコの友達の葉子(深川麻衣)を一途に思っているが、こちらもやはり葉子はナカハラを都合よく利用しているだけである。

巷に流布している「恋愛モノ」の映画やドラマ、漫画などはこの相関図を主軸にしている作品が多いと思います。しかし『愛がなんだ』はそれだけにとどまりません。

 

愛とは何か

ありがちな「恋愛モノ」だと思って見始めたのに、なかなかその相関図が動かない。それどころか、一見すると誰一人として健全な状態の恋愛をしていないのに、誰もその状況を変えようとしない。するとオーディエンスは、ただただ一方通行の愛が注がれ続ける関係性に違和感を覚え、当然のものとして理解したつもりでいた「愛」そのものを疑い始めるのです。

そんな中、ナカハラがテルコに「葉子さんと会うのをやめる」と伝えます。「葉子さんのことを好きだから今まで尽くしてきたが、もうその一方通行の関係に耐えられない。だけど葉子さんが自分を好きになることはない。それでも自分は葉子さんのことが好きだから、葉子さんと離れる」と言うのです。本作でそれまで貫かれてきた「好きだから尽くす」という行動原理すら否定され、いよいよ観客は「愛とは何か」がわからなくなったことでしょう。少なくともいたがきは「「好き」と「執着」って何が違うんだっけ?自分が「愛」だと思っていたモノって、本当に「愛」なのかな?そもそも自分は何を「愛」だと思っていたんだろう?もうわけわからん!」と、途方に暮れました。相関図における矢印の崩壊です。

しかし一方、劇中でナカハラに「愛ってなんですかね?」と聞かれたテルコは、こう言い放つのです!

愛がなんだ!

 

愛がなんだ

 「愛がなんだ!」と言い放ってからは、もうテルコの独壇場です。相変わらずマモルに執着するテルコですが、映画終盤ではついにマモルのことが「好き」じゃないとまで断言します。そこに「愛」はないし、「好き」でもないのに執着する。その理由はもうテルコにしかわからないし、テルコ本人はそれを考えようとはしていない。オーディエンスは完全に「愛とは何か」の問いでテルコに置いていかれているので、テルコの執着が正しいことなのか判断できるはずもないのです。これぞまさしく今泉力哉監督の描きたかった「正解のない愛の形」ではないでしょうか。

 

本当の意味での恋愛映画

先述の通り、恋愛モノの映画の多くは恋愛の作用によって相関図が変動するのを楽しむ、いわば「恋愛相関図映画」だと言えます。対して『愛がなんだ』は「恋愛」そのものの意味を模索することをテーマにしています。両者の間に優劣があるとは決して思いません。しかしながら、本当の意味での「恋愛映画」とは『愛がなんだ』のような作品のことだと思います。

 

おわりに

本当に素晴らしい作品なのでとにかく観てください。観たことある人も観てください。

 

愛がなんだ

愛がなんだ

  • 発売日: 2019/09/27
  • メディア: Prime Video
 

 

岸井ゆきのちゃんを初めて見たのはKANA-BOONの『ないものねだり』のMVっていう同志おる?笑


KANA-BOON / ないものねだり

 

こないだのウレロの岸井ゆきのちゃんもスゴかったなぁ。*2

 

では、また明日。 stay tuned!

*1:早稲田松竹は今では数少ない名画座映画館として、ロードショーの終了した映画や過去の名作を厳選し、二本立てで上映している。

*2:ウレロ☆シリーズはテレビ東京系列で放送されている客前一発本番シチュエーションコメディドラマである。シリーズの第5弾にあたる『ウレロ☆未開拓少女』の第2話に岸井ゆきのがゲストとして登場した。